駄文集

思ったことをただ書きます

小説

灰色の壁

帰宅途中、灰色の壁を見上げて自分が寂しいことを自覚した。いや、これが初めてではなかった。朝布団から上半身を起こすとき、トーストを食べようとしたとき、駅まで向かうとき、駅から大学まで歩くとき、昼食を買ってベンチに腰掛けるとき、帰りの電車を駅…

新年

空腹を感じたので1階に降りる。ゲームを8時間連続でプレイすれば腹も減るというものだ。部屋の外の冷えきった空気を感じながら階下に行くと、起きている人間は誰もいなかった。午前7時。母親の姿はなく、父親はまだ寝ているらしい。少し前までの父親は、自分…

バーバリーマン

夜の住宅街に足を向ける。特段変わったところのない普通の住宅街だが、今日の私にとっては普通ではない。現在の時刻は深夜2時。この時間にもなると道を歩く人はほとんどいない。30分の間に1人の人間とすれ違うくらいの静閑さだった。私は目があまり良くない…

夜行

私は気がつくと夜の電車に乗っていた。どうして乗車しているのか思い出せない。乗る前に何をしていたのかもわからない。これは夢なのだろうか。わけがわからない。しかし夢と思ったとて、特に変化はなく、時間が過ぎるだけだった。どうしようもないので、と…

フレンド

広いベッドだった。マットレスの中央で2人分の肉体がくっついていたからだ。肉と肉の境界は限りなく曖昧になっていた。彼女とは去年、大学で出会った。偶然、大教室での講義で席が隣になったことから知り合ったのだ。今僕らは行きつけのホテルにいた。このホ…

ナイフと骨付きチキン

とても嫌なことがあった。正確には小さな嫌なことがたくさん降り積もって、心のどこか大事な部分がその重さに耐えられなくなり、巨大な黒い穴が空いてしまった感じだった。その底なしの黒さが全ての前向きなことの一切合切をその内に引きずりこんで、体の中…

悲しき玩具

男には付き合っている女がいた。付き合い初めて2年になる。しかし男には、その女とは別に、付き合いたい女がいた。今の女と縁を切りたいわけではない。ただ、体の内側から滔々と滲み出て、心の臓を締め付け上げるあの感情を覚えさせる、あの女がいるのだ。そ…