駄文集

思ったことをただ書きます

悲しき玩具

 男には付き合っている女がいた。付き合い初めて2年になる。しかし男には、その女とは別に、付き合いたい女がいた。今の女と縁を切りたいわけではない。ただ、体の内側から滔々と滲み出て、心の臓を締め付け上げるあの感情を覚えさせる、あの女がいるのだ。その女が近くに居ると、居ても立ってもいられなくなった。何か大きなエンジンが疼いて、生物の本懐が太古の号令をかけているような気分だった。夏の木陰に立つのが似合うその女を見ていると、男は女をぐちゃぐちゃにしたいと思った。その女と目が合うと、目を伏せたくなった。男は苦しい。苦しいのだ。彼女は男を苦しくさせる。家で床に付くときも、彼の燃え盛る激情が、男を追い詰めた。この1週間ほど、男はその女に思考を奪われてしまっていた。男は付き合っている女と会っても、もはや何の感情も動かなくなった。男は幼い頃に遊んでいたおもちゃを思い出して、泣いた。