駄文集

思ったことをただ書きます

風呂少女

風呂に入る。熱い湯が身を包む。この熱が今の私の唯一の救済。少し前から熱い状態を求めるようになった。理由は簡単だ。頭がぼやけて他に何も考えられなくなるからだ。勉強、バイト、人間関係、親、それらに対して何もできない自分……。誰にでもありがちな理由だが、私にとっては十分に耐えきれないことだった。この熱さの中にいれば、それら面倒から頭を向けなくて済む。かすかなだるさに支配されながら弛緩で満たされた身体を湯舟に入れる。心地良い麻痺。肩まで浸かり、膝を曲げ、股を開き、後頭部と臀部のみで身体を支え、水面から首から上のみを出している。この体勢が熱を感じる上で最も効率がいい。じんわりと侵入してくる44°Cのお湯で股の部分が緩やかに熱くなっていく。強制的に芯の中を温められていく感覚。嫌いじゃない。

湯に浸かっていると、喉というか、口の中が乾いてくる。それすらも熱を感じている証だと思うと愛おしい。

水の音と換気扇の低い音が浴室に木霊する。

割れる。

曇った鏡を見る。そこには表面についた小さな水滴のせいか、混濁した意識のせいか、ぼんやりとした顔が映されている。むしろ、このぼやけたものが本当の顔そのものなのではないかと私は思った。よく覗き込むと、恍惚とも虚脱とも見える表情が見える。笑っているとも、怯えているともとれる。
鏡を見ていると、付いている水滴を、私の顔に多数の小さな穴があるかのように錯覚する。普段ならそんなはずはないということは十分自覚できるはずだが、なにぶん、こんな事態なので仕方ない。その穴から、なにやら良からぬものが這い出てくるような気がする。何か悪いものが……。

ただ湯に浸かっているだけではなく、体勢を変える。

毎日違う風呂に入っている。というのも色んな入浴剤を使っているためだ。一度に複数の入浴剤を混ぜることもある。そうすると1つのときとはまた違った効能を得ることができる。気がする。
何か割れた音が残っているのがわかる。恐らく私。本当の私が出てくる音。
 本当は崇高で居たかった。けれど私の環境は私に後のことなんて想像させてくれなかった。あるのは今だけ。数時間後にはもうない。

もし私が鳥だったらどうだろう。ものすごくはやくとんでみたい。とぶ鳥おとすいきおいで。もし私が銭湯のばんだいさんだったらどうだろう。お店にくる人を見守るのだ。せいいっぱい。もし私がお花やさんだったらどうだっただろう。きっとばらを売っている。青いやつ。町のすみで。

家を植え、木を建てる。癒え追う穢、気煽てる。不安な安全に覆われた真実、寄生する平行な場所、先んずる後産。何にでも合う合鍵みたいな錠前……。