駄文集

思ったことをただ書きます

霜月、寂寥

夜の公園でベンチに座る。来る途中のコンビニでおでんと麦茶を購入した。おでんはたまご、大根、もち巾着、牛すじだ。頭上から照らされるライトがすんでのところで私を照らしている。私以外には誰もいない。


思い返すと、色々あった。ある物語の終幕、その中にあった苦労と成果、色んな関係、その他喜ばしいこととそうではないこと。楽しいだけでは決してなかったが、終わった。それだけで満足だった。


木枯らしが吹き、木々から葉が落ちる。葉はかさりと地面について鳴いた。周りには、誰もいない。この木は、この寒い時期を乗り越えれば、再び新しい葉を装う。装うはずなのだ。しかし、どうにもそのような確信は、ついぞ得られなかった。太陽が上り、また下る――言ってしまえばそれほど当たり前のことなのだが、私は不安に包まれていた。


私はどうしようもないような危惧から逃避しようと、おでんのふたを開けた。開ける前からふたに空いてる小さな穴からにおいが漏れていた。小さな袋に入った、ゆずこしょうの調味料を規定の場所に出す。にゅるり。出し終わったら調味料の入っていた袋を舐めた。ぺろり。辛味を感じる。

 

大根を箸で4つに割った。ひと口で食べるには大きすぎたのだ。クウォーターになった大根に箸を刺して口に運ぶ。熱すぎたので味がわかる前に飲み込んでしまった。慌てて麦茶で口の中を冷やす。麦茶が喉を下ったところで、公園内の光景が目に入った。昼の時分には子どもたちがその周りを走り回っていたであろう赤い滑り台が沈黙を貫いていた。


私らを太陽は出迎えてくれるのだろうか。明日も明後日も私たちをその光で眠りから覚まし、生きる活力を与えてくれるのだろうか。私は怯えた。何の確証も得られないことを今まで信じていたことはなんて愚かなのだろうと思った。破滅寸前の薄氷に立っている気分だった。


そのとき、ベンチの右後ろから何かが動く音がした。落ち葉を踏みしめ、そこに座るのは黒い猫だった。後ろ足で器用に頭を掻いている。そしてそれは夜に溶け込みながらそろそろと私に近づいてきた。おでんが欲しいのだろうか、私はそう思った。しかし、猫は私の右足の隣にたたずむだけだった。餌をねだるような素振りも、声すらも発さなかった。ただ、いるだけだ。

 

なぜだか、私は安堵した。理由は分からないが、その猫に褒めてもらっている気がした。


 そのことに、私は打ちひしがれてしまった。もう太陽すら欲することはない、そう感じた。


そうして私はおでんの容器と麦茶の入ったペットボトルをベンチの上に置いて、歩いていった。