駄文集

思ったことをただ書きます

年月

 放課後、家に着いたらすぐさまランドセルを部屋に置き、小さいポーチを持って友達の家に自転車を飛ばして行くのが日課だった。そいつの家に着き、ドアを開けると同時に玄関までドタドタと足音が響いてくる。すぐに靴を脱ぎ、かかとも揃えぬままそいつの部屋に上がり込む。

 僕は右手に持っていたポーチからそれを取り出した、折り畳み式のやつだ。昨晩充電を忘れてランプがオレンジだったが、多分大丈夫だろうと思った。今日くらいはもつだろう。そんなことを考えていると、扉が開いておばさんがジュースを持ってきてくれた。

 そいつも僕も、クラスでは隅の方にいるタイプだった。それまでは特に話したりもしていなかったが、同じクラスになったことをきっかけに話すようになった。そいつも僕も同じものが好きだった。

 登場人物に感情移入したり、物語への考察をしたり、かっこいい装備を作ったりするのが僕のやりがいだった。そしてそれをそいつと語り合い、冒険するのが好きだった。

 いつしか僕たちは離れていった。それが小学校のときだったか、中学校のときであったか、よく覚えていない。それでも確かに僕らは離れていった。

 月日が流れた。僕はそれをすることから離れていた。何でなのかはわからない。多分、それ以外にやることが増えたからであろう。勉強とか、部活とか、恋愛とか、スマホとか。

 僕は今、会社員になった。日々、仕事をしており、毎日忙しい。生活の楽しみは、専ら帰宅して酒を飲みながら好きなバーチャルユーチューバーを見ることだけだ。

 1か月ほど前から、スマホの娯楽に時間を費やすようになった。理由は推しのバーチャルユーチューバーがそれの実況をしていたからだった。

 ネットでガチャから排出される強いキャラクターを調べ、それが出るまでリセマラをした。早く物語を進めるためにスキップ機能を使い倒した。もちろん最強装備をいち早く集めて、それしか使わなかった。新キャラが実装される日にはそのキャラの評価をTwitterで眺め、使い物にならないなと思うことが多かった。

 ある日、急に飽きが来た。もうやらなくてもいいかな、と思ったのだった。課金もしていたが、それを考慮してもやる気がわかなくなってしまっていた。感慨もない。

 最後なので、なんとはなしにクレジットを眺めた。特に意味はなかった。スタッフ陣の名前を覚える気もない。

 ......そこには知っている名前があった。