駄文集

思ったことをただ書きます

インフィニット

 某国某日某所。

「総理、この度の政策についてどのようなご意見をお持ちでしょうか」
 与党の参謀が尋ねた。
「考えている。特に先月末にあった前代未聞な台風による被害への対応は急務だ。今各所との調整をしている」
 総理はそう答えた。


 この国では国民の意見を政治に直接取り入れるために、国土の至る所に目安箱のようなものを設置しており、政治への意見や批判が誰でも入力できるようになっていた。しかしながら、この国の人々で政治に関心を持つものはとうにいなかった。理由は単純である。自分が関わらなくてもそれなりに幸せに生活を送ることができるからである。巧妙にシステム化された政治は国民の手から離れていた。政治に口を出さなくてもやっていける、この思考がのさばっていた。

 与党はもう1世紀変わっていない。野党も形だけのものがいくつかあるだけだった。要するに、野党も政治なんかに興味はないわけである。国会に出席し黙っていれば高い賃金が得られる、そのような認識のただの楽な職業だった。
 全体的なアパシーは、前触れのない自然の脅威への対処を阻害していた。こちらを立てればあちらが立たず、のような状態だった。会議は踊る。
「総理、こちらをご覧下さい」
 党のブレーンがパソコンの画面を総理の前に差し出す。
「何だこれは、この案なら全て解決するじゃないか」
 そこには台風への復興予算や、復旧作業の優先順序などが事細かに述べれられていた。
「国民から寄せられた意見です。ほら、全国的に設置してある…」
「ああ、あれか。たまには有意義な意見が来るものだな」

 政府による前代未聞の災害への対応策がメディアで報じられ、実行に移されると、国民はその手際の良さに手放しで歓喜した。


 某日某国某所。猿が浜辺のキーボードに手を打ち付ける。ランダムな文字に対応した打鍵音が鳴る。画面に文字が映った。